想像ラジオをいとうせいこう氏が

99日記

今年上半期の芥川賞、直木賞の受賞作が発表になりました。私が注目していたのは芥川賞。テレビでも活躍、「この人はいったい何が本業なのだろう」と思わせるところにその本質があるにちがいない、いとうせいこう氏が16年ぶりに書いた「想像ラジオ」が、候補作になっていたからです。残念ながらいとう氏は落選。受賞したのは藤野可織氏の「爪と目」でした。その受賞作は読んでいませんので、コメントは何もできません。けれど、いとう氏の「想像ラジオ」は読みました。それはまったくの偶然。今年の春でした。月に1回ぐらい行く代官山の本屋で、平積みになった「想像ラジオ」をたまたま目にして、買ったのです。私にとっていとうせいこう氏は、まず、「テレビでたまに見る、インテリ」というイメージからスタート。その後、私の趣味である園芸関連の、たいへんユニークなエッセイを上梓。私はいとう氏の「ボタニカルライフ」と「自己流園芸ベランダ派」という2冊の日記エッセイを座右に置くほどのファンになりました。とにかくおもしろい本なのです。いとう氏が小説も書くことは知っていました。けれどそれは完全な「余技」。今回の「想像ラジオ」も余技なのだろうと思いながら読み始めたら、まったくちがいました。余技どころか、ほとんど命がけの大仕事だったのです。仙台のキャバクラの求人にも大きな影響を与えた東日本大震災をテーマに、「死」と真正面から向き合いながらそれをエンターテインメントの枠の中で表現しているところに、いとう氏ならではの技があります。テーマや内容は大変深い。けれど趣向が凝っていて、表現はあくまで軽やか。これは夏目漱石と共通する日本文学の「王道」なのではないでしょうか。いとう氏はその王道を、ちょっとテレながら歩いています。その「照れ」もまた、漱石に似ているのです。実は2人とも東京人。いとう氏は浅草在住ということを自身の著作で知りましたが、「想像ラジオ」にも東京っ子の持ち味がよく出ていると思います。今回は残念でしたが、いとう氏にはこれを機に、小説をどしどし書いてほしいと思っています。